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自動車業界の未来を守る!セキュリティガイドラインレベル2・3達成のための実践ガイド

技術革新が進み、100年に1度と言われる大変革期を迎えている自動車業界において「自工会/部工会・サイバーセキュリティガイドライン」は、サイバーセキュリティ対策を考えるうえでとても重要なものです。

そのため、自動車業界に関わる企業はその内容を理解し、適切なセキュリティ対策に取り組むことが求められます。

前回のブログでは、自動車産業でのセキュリティ対策の基礎となるレベル1を達成するための基本ステップを解説しました。

しかし、自動車業界におけるサイバーセキュリティの重要性が増す中、レベル1だけでなくセキュリティガイドラインのレベル2とレベル3を達成することが、企業の信頼性を高め、競争力を維持するためには不可欠です。

本記事では、セキュリティガイドラインレベル2・3達成のための具体的なステップと実践方法について解説します。

本記事と合わせて、「自動車業界を守る!サイバーセキュリティガイドライン概要解説!」「自動車業界必見!セキュリティガイドラインレベル1達成のための基本ステップ」をご覧いただくと、内容をさらに深く理解できると思います。

また、自工会/部工会・サイバーセキュリティガイドラインの原文はこちらから確認できます。

セキュリティレベル2・3の概要

自工会/部工会・サイバーセキュリティガイドラインにおいて、レベル2は「防御力の強化」に焦点を当てています。

レベル1で取り組んだ基本対策に加えて、より高度なアクセス管理や定期的なセキュリティ評価、ルールの策定、定期的な是正が求められます。

具体的には、内部脅威の検出や防止、ネットワークセキュリティの強化、守秘義務の徹底、個人情報に特化した規定の策定が重要なポイントです。

レベル3は「高度なサイバーセキュリティ対策の実装と更新」に焦点を当て、レベル2の対策を基盤として、さらに高度な脅威検出・対応、インシデント対応計画の策定と定期的な見直しが求められます。

具体的には、社内のデータの流れの共有だけでなく、重要なデータを扱うパートナー企業のセキュリティ対策状況を把握し、攻撃を受けた際の迅速な対応能力を強化し、業界全体でのセキュリティ意識を向上させることが目標となります。

レベル2達成のための具体的なステップと実践方法

では、レベル2を達成するためには、具体的に何に取り組む必要があるのでしょうか。

本記事では以下の4つのプロセスについて取り上げます。

1.高度なアクセス管理

2.定期的なセキュリティ評価

3.内部脅威の検出と防止

4.ネットワークセキュリティの強化

1. 高度なアクセス管理

社内データへのアクセス権限を適切に管理することで、内部からの不正アクセスを防ぎ、データの機密性、安全性を確保します。

ロールベースのアクセス制御 (RBAC※1) の導入

各従業員に業務に必要最低限なデータアクセス権限だけを与えることで、システムやデータへの不要なアクセスを防ぎます。

これにより、内部の不正や情報漏洩のリスクを効果的に抑制し、全体的なセキュリティを高めることができます。

例えば、マーケティング部門のスタッフが人事部門のデータにアクセスできないようにすることで、社員データの漏洩リスクを最小限に抑えることができます。

※1RBAC:Role Based Access Controlの略称

2. 定期的なセキュリティ評価

レベル1で策定したセキュリティポリシーの遵守状況やシステムの脆弱性を定期的に評価し、問題点を迅速に改善します。

内部監査の実施

定期的にセキュリティ監査を行い、セキュリティポリシーの遵守状況や脆弱性がないかを確認することで、有事の際に迅速に対応できます。

年に一度、大規模に行う監査だけでなく、四半期ごとに小規模な監査を行うことで、より早期に問題を発見し、対応することが可能です。

ペネトレーションテスト※2の実施

専門のセキュリティ業者に依頼し、システムの脆弱性を徹底的に検証してもらうことで攻撃者の視点からセキュリティを評価し、改善点を見つけ出します。

例えば、最新のハッキング手法に対する耐性をテストすることで、セキュリティの強度を確認できます。

※2ペネトレーションテスト:様々なハッキング技術やツールを用いてシステムに攻撃を仕掛け、システムのセキュリティを検証し、脆弱性を見つけるテスト

3. 内部脅威の検出と防止

内部脅威を検出し防止するために、従業員の行動を監視し、異常な行動パターンを検出するシステムを導入します。

ユーザー行動分析 (UBA※3) の導入

従業員の行動を監視し、異常な行動を検出するシステムを導入することにより、内部からの脅威を早期に発見し、適切な対応を取ることができます

例えば、通常の勤務時間外に大量の社内データをダウンロードするなどの異常な行動を検出した場合に発生した情報漏洩リスクに早期に対応することが可能となります。

※3UBA:User Behavior Analyticsの略称。ユーザー(人間)の行動分析だけでなく、機器やネットワークの行動も含めてUBEA(User Behavior Entity Analytics)と呼ばれることもある

定期的な教育プログラムの実施

従業員に対して、特に重要な社内ルールや自らの責任について定期的に教育を行うことにより、一人一人のセキュリティ意識が向上し、内部脅威の防止に繋がります。

例えば、フィッシング詐欺への対策や、安全なパスワードの管理方法についての教育を行うことは即効性があるといえるでしょう。

4. ネットワークセキュリティの強化

ネットワークを区分けし、各区分ごとにアクセスを制限することで、被害を最小限に抑えます。

ネットワークの区分け(セグメンテーション)

社内ネットワークを複数の区分に分割し、特定の区分が攻撃された場合でも被害を最小限に抑える仕組みを構築します。

例えば、システム開発環境と製品生産環境を分けることで、一方が攻撃された場合でも他方への影響を防ぐことができます。

高度なファイアウォール設定

最新のファイアウォール技術を活用し、社内外のネットワーク上を移動するデータを厳密に監視・制御します。

最新のファイアウォールは、データの内容を詳細に分析し、異常な活動を検出する能力を持っています。これにより、未知の脅威にも迅速に対応することができます。

セキュリティレベル3達成のための具体的なステップと実践方法

次に、レベル3達成のための具体的な取り組みについてです。

本記事では以下の3つのプロセスについて取り上げます。

1.高度な脅威検出と対応

2.インシデント対応計画の策定と見直し

3.継続的な教育・訓練の実施

1. 高度な脅威検出と対応

最新の技術と情報を活用して、異常な活動をリアルタイムで検出し、適切な対策を講じます。

機械学習を利用した異常検出システム

機械学習を使って、通常のデータの動きから逸脱する異常な活動をリアルタイムで検出するシステムを導入することが有効です。

異常検出には主に「教師なし学習」という学習方法が利用されます。教師なし学習とは、答えが与えられていないデータを使って、そのデータの中にある共通点やグループを見つける手法です。

「教師なし学習」を用いた異常検出の例として、クレジットカードの不正利用検知が挙げられます。

始めに通常の購買パターンを学習した後、「教師なし学習」を行うことにより、いつもとは異なる高額な購入や異常な時間帯の利用を検知することができ、不正利用の可能性を早期に察知し、顧客に警告を発することができます。

同様に、ネットワークセキュリティにおいても、通常のデータの動きを学習することで、異常なアクセスや攻撃の兆候を感知し、迅速に対応することが可能です。

セキュリティ脅威に関する情報の有効活用

世界中の最新のセキュリティ脅威に関する情報を活用し、最新のサイバー攻撃に対するセキュリティ対策を常に更新します。

例えば、新たに発見されたマルウェアやサイバー攻撃の手法についての情報を社内のセキュリティチーム、関連部門、およびパートナー企業と共有し、迅速に対策を講じることが重要です。

2. インシデント対応計画の策定と見直し

サイバー攻撃や情報漏洩などの緊急事態に迅速かつ効果的に対応するための計画を策定し、定期的に見直します。

詳細なインシデント対応計画の策定

情報セキュリティ事件・事故時の対応手順を詳細に策定し、全従業員に周知徹底します。計画は定期的に見直し、必要に応じて改訂します。

例えば、データ漏洩が発生した場合の初動対応、原因の調査手順、システムの復旧プロセスを明確に定めることが重要です。

システムの復旧プロセスには、影響を受けたシステムの再構築、バックアップからのデータ復元、セキュリティパッチの適用などが含まれます。

3. 継続的な教育・訓練の実施

従業員が最新のセキュリティ知識を持ち、適切に対応できるようにするための教育と訓練を実施します。

システムの導入や計画の策定よりも取り組みやすい内容となっていますので、自社のセキュリティ意識を向上させたいと考えている方はこちらに取り組むといいかもしれません。

組織をまたいだ事件・事故対応の教育

組織をまたいだ情報セキュリティ事件・事故の教育を定期的に実施することで、従業員のセキュリティスキルを向上させることが可能です。教育方法には以下のようなものがあります。

eラーニングコース

従業員にオンラインで学習できる環境を提供することで、それぞれが自分のタイミングで最新のセキュリティ知識や対策について学ぶことができます。

コースの内容として挙げられる例として、フィッシングメールの特徴やそれに対する対策を学ぶコースがあります。

セミナーやワークショップ

専門家を招いたセミナーやワークショップを開催し、従業員が直接質問したり、実践的なスキルを学ぶ機会を提供します。

例えば、最新のサイバー攻撃手法やそれに対する防御策についてのワークショップを定期的に開催すると効果的です。

社内ニュースレター

定期的に社内ニュースレターを配信し、最新のセキュリティ情報や対策を共有します。

そうすることで、従業員が日々の業務の中でセキュリティ意識を高めることができます。

組織をまたいだ事件・事故対応の訓練

標的型攻撃メールのシミュレーションや、コンピューターウイルスに感染してしまった際の対応訓練などを実施し、実際の事件・事故に備えます。具体例として以下のような訓練があります。

フィッシングメール訓練

実際のフィッシングメールを模したメールを送信し、従業員がどのように対応するかを確認します。

社内での開封率などを集計し、結果を共有することで一人一人のセキュリティへの意識に働きかけます。

インシデント対応訓練

特定のシナリオに基づいたインシデント対応の訓練を実施します。

例えば、重要なシステムがランサムウェアに感染する前のインシデント対応手順を実際に行うことで、有事の際の現場対応能力を高めつつ事故防止のための対応を学ぶことができます。

コンピューターウイルス感染後の対応訓練

従業員がコンピューターウイルス感染を検知した後の初動対応や復旧手順を実践的に訓練します。

例として、ウイルス感染を検知した際の連絡手順(方法・経路)の確認や、感染拡大を防ぐための初動対応を実際に行うことで、迅速かつ正確な対応ができるようになります。

まとめ

セキュリティガイドラインのレベル2およびレベル3の達成は、自動車業界全体の信頼性と競争力を高めるために必要不可欠です。

ガイドラインを理解し、具体的な実践方法を学ぶことで、自社のセキュリティ対策をより一層強化しましょう。

まず、取り組みやすいこととして社内教育や訓練の実施を検討してみてはいかがでしょうか。

本記事で取り上げたプロセスを実践・達成することで、自動車業界の未来を守り、企業の信頼を築くことができます。